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或る近衛騎士の記憶

「最近街でドラゴンの目撃情報が増えているようです。」

「ボクも見た!あれさ、多分この近くに巣とか作っちゃってるよね。」

「えぇ!?な、なんか怖いなあ……」

 

そんな会話が騎士の間で頻繁に囁かれるようになり、以前から話に上がっていたドラゴン討伐計画が急に現実味を帯びてきた頃。陛下からの命で、騎士団全体の人員配置を任されたオレは、まず国の護りを固めることを最優先に考え、周辺国から応援を招集することにした。

この国の騎士団は人数自体が少ない。日々訓練はしているが、実戦に慣れた者となると限られてくる。陛下直属の近衛騎士であるオレたち四人でさえ、実戦に慣れているとは言えない。

"なるべく剣は汚さない"がこの国の信念である以上、ドラゴンなどオレらじゃ到底太刀打ちできる相手ではないことは明らかだった。

 

とにかく援軍が必要だ。オレの弟子であるレンと守備陣営のアキヤマが直接周辺国へ赴き、即戦力を集めてきてくれた。

白の国は小さな国であり、他国の人間を引き入れることには一抹の不安があったが、アキヤマとレンは人の本質を見抜くことに長けていた。なんとか城の護衛は十分な人数が集まり、これから隊を立ち上げたりと城内がせわしなくなってきた矢先、ついにドラゴンが襲撃してきやがったんだ。

 

しかし、オレたちはギリギリで踏みとどまることができた。あいつがいたからだ。国中が騒然としている中、周辺国より招集されたあの男は、たった一人で信じられないほど的確な指示を出し、騎士団を導き事態を収束させた。

オレたちはドラゴンを退けたことに浮かれていた。影で起きていたあの悲劇にも気づかずに。

 

陛下が既に亡くなっていたと聞かされたのは、少しだけ国に安寧が戻った、その直後だった。陛下の第一側近であった聖女が泣き腫らした目でそれを告げた。

 

オレたち四人は幼い頃からこの国に仕え、やがて陛下の傍に立つ近衛騎士となった。

陛下は国民たちに希望を与え続け、この国の支えそのものだった。

そんな方が犠牲になってしまった。その悲しみは他の三人にもあるようで、オレたちは声を押し殺し、ただ静かに涙を零した。

 

「このことを国民に伝えるのは控えましょう。今言っても余計混乱を招くだけです。」

そう提案してきたのは情報担当のヒノモリだった。

聖女は取り乱しながら反対していたが、オレは同感だった。

今、陛下の死を広めれば、この国はもたない。

この国はオレらが必ず守る。亡き陛下のためにも。

あいつらも同じ気持ちのはずだ。

数日後、オレたち四人と聖女だけで陛下を弔った。

ミズキはクレオメを、聖女はキバナコスモスを静かに手向けていた。

聖女はその後、オレたちの前に姿を現すことはなかった。

 

弔いの余韻に浸る間もなく、陛下の死は伏せられたまま、城は以前の白の国を取り戻すために動き続けた。

陛下の担っていたすべては、オレたちが引き受けることになった。

慌ただしい毎日、変わり続ける日常の中で、白の国をあの頃のように取り戻すには、時間も体力も必要だと痛感した。

陛下はこれを、毎日おひとりで背負っていたのかと、改めて思い知らされた。

オレたちは支えているつもりで、ただ寄りかかっていただけだったのかもしれない。

その後、この国の指揮を執ることになったのは、応援で招集された隣国の騎士――ツカサだった。

ツカサを騎士団の隊長に据えることに、誰も異を唱えなかった。ドラゴン襲撃の際に皆を導いたあいつは民衆からの支持も厚く、隣国の騎士でありながらこの国の英雄となった以上、簡単にその座から降ろすこともできなかった。そしてなにより、オレたちとの経験の差は歴然だった。

突然、他国の指揮を執ることになって、戸惑いもあったはずだ。隊長という重荷を背負いきれなければ、オレが代わるつもりでいたが、その必要はなかった。

あいつには、隊長としての才があった。

今の白の国には、彼の力が必要だった。

そうして、ツカサが加わったオレたち五人を中心に、白の国の騎士団は《白騎士》と呼ばれるようになった。

 

とはいえ、ツカサはあくまで隣国の騎士だ。

信用しきるには、まだ早い。

オレたち四人が常に側につき、最大限の協力はするが、もしあいつがこの国を裏切るようなことがあれば――その時は、容赦はしない。

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